ソウル大病院支部労組の闘い

原則貫き闘うソウル大病院支部労組の仲間が11・6集会に参加

「金より命を」 
2004年6月10日、保健医療労組がストに突入した。(「労働と世界」293号)

 今年の11・6労働者集会には、アメリカの労働者とならんで、韓国・民主労総から22名の仲間が参加する。ソウル大病院支部労組からは、副委員長と教育部長の2名が参加する。
 昨年6月に非妥協的なストを闘ったソウル大病院支部労組(スト当時は保健医療労組ソウル大病院支部)の闘いを紹介する。

「金より命を」

 昨年6月10日、国立ソウル大病院、高麗大病院など保健医療労組に所属する全国121の病院支部が、「金より命を」のスローガンを掲げ、週5日制実施、非正規職の正規職化、医療の公共性強化などを求めてストライキに突入した。ソウル大病院支部の闘いに対しソウル大病院は、刑事告発と15億ウォン(約1億5千万円)の損害賠償請求・仮差押えの攻撃をしかけた。
 同月23日、保健医療労組は、一時的な土曜隔週勤務、患者権利章典宣言、病院産業への最低賃金制導入などで病院側と合意し、ストを終了した。しかしソウル大病院支部は、この産別合意を拒否してストを続行し、7月25日まで44日間にわたって闘いぬいた。その中でスト参加者数は、当初の300人から800人へと拡大した。
ソウル大病院支部の要求の一つは、差別のない週5日制転換と生理休暇・年月次休暇の賃金補填だった。つまり産別合意では、週5日制や、生理休暇・年月次休暇(勤労基準法の改悪で無給化)の賃金補填について、今いる職員だけを対象としているため、新しく入ってくる職員との間に差別が生じてしまうとして反対したのだ。
もう一つは、医療の公共性確保だ。ソウル大病院は患者の命よりも金儲けを優先し、公共施設としての役割を投げ捨てているとして、短期病床制廃止、病室料の引き下げなどを要求したのだ。
医療の公共性確保に関して、民主労総ソウル本部も、市民団体とともに「公共病院としてのソウル大病院奪還共同対策委」をつくってソウル大病院支部とともに闘った。
 ソウル大病院支部は44日間のストライキ闘争の末、△週5日制に向けた人員確保、△損害賠償・仮差押えなどの取り下げ、△非正規職員33人の正規職化、△短期病床制・2人病室料引き下げ案の年内策定などで合意した。しかし新入職員の生理休暇賃金補填問題は解決しなかった。

 民営化と団結破壊に対し原則貫く

 産別交渉の中で独自の闘いを行ったソウル大病院支部に対し、上部団体である保健医療労組はキムエラン支部長を懲戒に付した。ソウル大病院支部は、差別を容認する産別協約の押しつけは支部独自の闘いを縛る、と主張し続けたが受け入れられず、今年4月、「悲痛な心情」で産別労組を脱退し、ソウル大病院支部労組に組織を変更した。「支部労組」という名前には、産別労組建設を否定するわけではないが、原則を貫くために保健医療労組を脱退せざるを得ないという思いが込められている。
*   *   *
 ソウル大病院支部の闘いは、労働者の分断支配=団結破壊を許さない闘いであり、労働者の生活に不可欠な公共部門を切り捨て、利益を追求する民営化攻撃との闘いだ。そして、分離・独立を辞さず原則を貫いている闘いだ。戦争と民営化=労組破壊と闘う11・6労働者集会の場でソウル大病院の仲間との大合流を実現しよう。

声明 ソウル大病院支部労働組合

 本日ソウル大病院支部は、悲痛な心情で保健医療労組を脱退し、ソウル大病院支部労働組合に組織を変更する。
 ソウル大病院支部労組は19年間、解雇と拘束を堪え忍び血と涙で守ってきた団体協約、その自主的団結権と団体行動権を封鎖して紙切れにしてしまう保健医療労組の2004年産別合意案10章2条の廃棄を主張してきた。しかし保健医療労組は、10章2条に対する問題提起やシンポジウム開催、条件付き脱退を決めたという理由でキムエラン前支部長を「除名」するという懲戒を断行した。…05年産別交渉で10条2条を廃棄せず、むしろ産別協約優先適用の基準を強化することを3月31日の臨時代議員大会で決めた。

●健全な問題提起の黙殺は労組民主主義ではない!
 …保健医療労組は、10章2条に対する問題提起を多数の力で黙殺し、討論会開催と宣伝物発行を反組織的行為と決めつけ、44日にわたって資本・政権と対決して闘った組合員に対して支援闘争を行わなかった。

●資本と政権からの労働者の自主性を失ったら民主労組ではない!
 資本と政権は、産別労組を通じて労務管理費用の削減、すなわちストライキ自制、支部単位の二重交渉禁止、支部争議の禁止を目的として産別中央への権限集中を力説している。保健医療労組も、産別交渉は交渉費用を減らし、支部単位の争議を減らすことができると…産別労組の必要性を主張している。

●自主的で信頼される民主労組を新たに始めよう!
 …資本と妥協せず、資本の言いなりにならず、労働者自らが主体的な人間になって闘う姿、そして資本に対決して闘う労働者たちが連帯する労働組合、それこそまさに民主労組だ。

●下から現場組織力を強化する労働組合!
 …解決請負労組、代行してくれる労組ではなく、組合員が直接参加して自ら実践し、その中で問題を一つずつ解決してゆく活動を通じて現場組織力を強化させてゆくのだ。

●組合員の実践が土台となった公共医療強化闘争!
 現場組合員の実践を土台に公共医療強化闘争の先頭に立つ。…金があろうがなかろうが、誰もが治療を受け、健康を保つ権利を享受することができる平等医療、無償医療を実現するために闘う。

●未組織労働者の組織化、非正規職撤廃闘争!
 2300人ほどのソウル大病院企業別労働組合では、1800万労働者の暮らしを締めつけているこの現実を解決することはできない。連帯闘争をやらない労働組合は御用労組に転落するという危機感を…私たちははっきりつかんだ。未組織労働者、非正規職労働者との連帯闘争だけが、この真っ暗な現実を変えることができる。ソウル大病院支部労組は、未組織労働者の組織化事業と、非正規職撤廃闘争の先頭に立つ。

●真の産別労組建設のために前進する!
 …企業別労働組合に回帰するために脱退するのではない。闘う労働者と共にあり、現場組合員の意志を土台として信頼を積み重ねてゆく民主産別労組、真の産別労組建設のために進むことを明らかにする。

2005年4月2日

 

 病院労組スト突入…徹夜交渉決裂

(ハンギョレ2004年6月10日06:53付)

病院労使の賃金・団体協約交渉が決裂し、全国100の病院の労組員が10日午前7時、ストに突入した。
 労組は応急室などの必須業務に人員を配置しているため、今のところ診療に影響は出ていないが、ストが長期化した場合、外来患者などへの影響が予想される。
 病院労使は前日午後、中央労働委員会特別調停会議を開いたが、中労委が提示した調停案を双方が拒否した。
 中央委はこの日、△労働時間を1日8時間、週40時間にするが、土曜勤務およびその他の勤労条件は労使の自主的合意で決定すること、△賃金は週40時間およびその他の労働条件とリンクして決定すること、△産別基本協約の締結と非正規職問題の解決に向け労使共同の協議機関を設置・運営すること、などの調停案を提示した。
 しかし、労働時間の場合、使用者側は「週6日、40時間」、労組側は「1日8時間、週5日、40時間制」という立場を固守するなど、双方が調停案受け入れを拒否したため、中労委が「調停不成立」を宣言した。
 労組は前夜、高麗大学の露天劇場で組合員1万人が参加する中、スト前夜祭を開いたのに続き、10日午前7時からソウル大病院、高麗大・漢陽大医療院など全国100の病院支部別にストを行っている。

 「金より命を」
 6月9日夜の保健医療労組スト前夜祭。1万組 合員の叫びが会場を埋めた 
        (「労働と世界」293号)

この日は、ストにもかかわらず、労組が中労委の条件付き職権仲裁決定に基づき必須業務に人員を配置した上、一部の病院が代替人員を投入したため、診療への影響や手術遅延など「医療大乱」は起こらなかった。(後略)

 


●韓国労働部「61病院、5500名がスト(ハンギョレ2004年6月10日13:55付)
 労働部は10日午前9時現在、交渉に参加している121の病院のうち61の病院で全組合員3万7877人の内の14.6%に当たる5521人がストに参加していると集計した。
 病院別では、国立大病院7ヶ所1200人、私立大病院13ヶ所2500人、地方公社医療院10ヶ所300人、特殊目的公共病院2ヶ所500人、赤十字病院14ヶ所500人、民間中小病院15ヶ所400人など。
 組合員300人以上がストを行っている病院は、ソウル大病院、全北大病院、高麗大医療院、漢陽大医療院、サンゲペク病院、ウォングァン大病院、韓国報勳病院の7ヶ所。

●病院労組「主要病院の労使交渉妥結」(ハンギョレ7月14日14:25付)
 産別交渉妥結にもかかわらず事業所別交渉が難航し14日に集中ゼネストを予告していた全国保健医療産業労働組合は、主要病院の労使交渉が妥結気流に乗っていることを明らかにした。保健医療労組側は「14日のゼネストを前にハニャン大病院、チュンナム大病院など主要な私立大病院が交渉を終えた」とし、「121の事業所のうち、過半数の65の病院で交渉が妥結した」と述べた。
 しかし、週5日制勤務問題めぐって長期ストを行っているソウル大病院とクァンミョン誠愛病院は、いまだ妥結の目処が立っていない。
 保健医療労組は「中小病院も労使交渉の結果、妥結が迫っているため、今週末までに交渉は大部分妥結する」とし、「民主労総の総力闘争日である21日に合わせて支部別集中交渉を提案する」と述べた。

●ソウル大病院労組、損害賠償・仮差押え撤回要求(ハンギョレ7月16日付)
 民主労総ソウル本部など18の団体でつくる「公共病院としてのソウル大病院取り戻し共同対策委」は16日、損害賠償・仮差押えを撤回し、労組弾圧を中止するよう病院側に要求した。
 共同対策委はこの日、ソウル大病院のろう城現場で記者会見を行い、このように要求した後、「ソウル大病院は患者への影響を最小化するための交渉に誠実に臨め」と重ねて要請した。
 共同対策委は会見文を通して、「毎年300億ウォン以上の国庫支援を受けているソウル大病院は、公共病院の役割と果たさず、金儲けを重視している」とし、△6人部屋以上への病床拡大、△短期病床制・特進制廃止、△完全な週5日制施行と非正規職の正規職転換などを注文した。
 ソウル大病院労組は6月10日以来38日目のストろう城を行っており、病院側は14日、労組指導部15人に待機発令措置をとる一方、刑事告訴とともに15億ウォンの損害賠償訴訟を起こした。

●国立ソウル大病院の損害賠償・仮差押え申請が波紋(毎日労働ニュース7月19日付)
 労働・市民団体、強く反発
 民主労総は17日、声明を出し、「昨年、ペダルホ同志をはじめ損害賠償・仮差押えなど労組弾圧に対し全身をなげうって抗議した烈士たちの死の記憶がいまだ生々しく残っているにもかかわらず、国立大病院が損害賠償・仮差押えと告訴告発で労使関係を破綻させようとしていることに怒りを禁じ得ない」と表明した。
 2003年にはトゥサン重工業の故ペダルホ氏、ハンジン重工業の故キムジュイク支会長ら5名の労働者が損害賠償・仮差押えに関連して命を失い、昨年12月には労使政が損害賠償・仮差押え問題の解決に向けた社会協約を締結したのに続き、金属労使が6日、産別交渉で損害賠償・仮差押え廃止に合意するなど、社会的合意を形成してきた。
 <毎日労働ニュース>が5月25日から6月2日まで152人の17代国会議員を対象に実施した労働立法懸案についてのアンケートの結果では、79%の国会議員が損害賠償・仮差押えを制限することに賛成していることがわかった。
 こうした社会世論により、今年に入って労組を対象にした損害賠償・仮差押えは目立って減っている。そうした中、ソウル大病院のケースは、公共機関として今年初めて請求された損害賠償・仮差押えという点で批判を受けている。
 16日、全国保健医療産業労働組合も声明を出し、「ソウル大病院がとっている弾圧措置は、円満な妥結を困難にし、労使県警を破局に追いやるだけ」だとし、「対話には対話で、弾圧には闘争でという原則のもと、ソウル大病院の労組弾圧行為に対し強力に対応する」と表明した。労組はユンヨンギュ委員長とソンサンチョル・ソウル大病院長の面談を提案した。(後略)

●ソウル大病院労組、スト40日超えた理由は?(ハンギョレ7月21日14:32付)
 ソウル大学病院労働組合が40日を超えた。先月(6月)10日、全国保健医療産業労働組合が△週5日制戦取、△非正規職の正規職化、△医療の公共性強化などを掲げてゼネストに突入して以降、産別交渉が続々と妥結し、先月23日にはストを終えたが、ソウル大病院は依然として「労使戦争」状態だ。
 それどころか、ストの規模が産別スト初期の300人線から最近は800人線にまで増え、いっそう熾烈化している。組合員が病院2階のロビー、駐車場などで座り込みを行い、ソウル大病院の運営に支障が出ている。労組は、差別のない週5日制転換と生理休暇および月次休暇の同等な適用、短期病床制の廃止と病室料引き下げ(医療の公共性確保)など支部の要求案が受け入れられるまでストを続けるとの方針で、スト解決の突破口は依然として霧の中だ。
◇なぜスト長期化?
長期ストが続いている理由は、産別締結案と支部労働者の要求案との間に隔たりがあること。労組側は妥結された産別協約以外に、△正規職差別のない休暇補填手当(人員増を含む)、△非正規職の正規職化、△医療の公共性確保(短期病床制廃止、病室料引き下げ、テレビ無料視聴)など支部案の受け入れを病院側に要求している。
労組は21日、「産別協約には、既存の職員についてのみ生理休暇補填手当てを支給するとなっているが、これでは正規職の間に新たな差別を招く」とし、「チェジュ大・ヨンナム大をはじめ27の地方公社医療院が支部交渉を通して差別のない適用で合意しており、新規に補充された人員に対しても同等の補填手当を出すべき」と主張した。
これに対して病院側は「すでに妥結された産別協約には絶対に手をつけられない」とし、労組ストを不法ストと規定し、キムエラン・ソウル大病院労組支部長を含む15名の労組員への待機発令と15億ウォンの損害賠償仮差押え申請で対抗しており、労使対立は破局に向かっている。
特に労組側は、労組員に対する告訴はともかく、労働者全体の自尊心にかかわる「損害賠償・仮差押え」をかけられたことに激憤している。また、「損害賠償・仮差押え撤回」は民主労総が組織の命運をかけて掲げている核心争点であり、労働界の反発も高まるものとみられる。
民主労総など18の団体でつくる「公共病院としてのソウル大病院をとりもどす公共対策委」のヒョンジョンヒ執行委員長は、「長期間のストは労組ができて以来、今回が初めて」だとし、「新たに赴任したソンサンチョル病院長が労組を無力化させるために、交渉ではなく無労働無賃金の適用、待機発令・解雇、損害賠償・仮差押えなどで労組を弾圧している」と述べた。
 共同対策委は7月16日、損害賠償・仮差押えを撤回し、労組弾圧を中止するよう病院側に求めており、民主労総も対策に腐心している。
 こうした労組の動きに対し病院側は、損害賠償・仮差押えの提訴がもたらす反発を予想できなかったわけではないが、労組がストを解くことをひたすら待つしかないという立場だ。

◇妥結展望は依然「曇り」
 病院と労組は産別合意案を引き出して以降、「週5日制」にともなう人員補充などの問題をめぐって数回にわたり実務交渉を行ってきたが、妥結の展望はいまだに暗い。
 労組が「先月23日の産別交渉妥結以降、『産別ゼネストから支部ストに転換する』との保健医療労組の指針に基づいて行っている今回のストは、争議手続きを経た合法スト」だとして病院側の誠実な交渉を要求しているのに対し、病院は「ストを解けば」交渉に臨むとする態度を固守しているからだ。ストが40日以上にわたって続いているが、双方の考えはあまりにもかけ離れている。労働部もソウル大病院の労組ストを不法と規定している。
 労組関係者は「病院が何らかの案を出し、交渉に臨めば、妥協することもあるのに、そうした行動すらないため、ストを続けざるをえない」と述べ、「病院は速やかに妥結の意志を示すべきだ」と強調した。
 これに対し病院関係者は「基本的に今回のストは双方が少しずつ譲歩して解決する性質のもでのはない」とし、「労組が産別協約を超える要求条件を撤回しなければならないのに、そうした可能性は少ないと思われる」と述べた。それでもストが長期化するのは負担なようだ。
 いずれにせよ、ソウル大病院ストと労使対立で最も大きな被害を受けているのは患者だ。すでにソウル大病院の患者の手術率は30%以下に落ち込んだ。入院室の稼働率も50%線を下回っている。ソウル大病院側は、病院の正常化が遅延し非難の矢面に立っている。労組員も、無労働無賃金の適用と損害賠償・仮差押え、報復人事などで苦痛を被っているという点では同じだ。労使双方ともに早期に解決の糸口をつくる必要がある。

●ソウル大病院労組スト、44日目に妥結(ハンギョレ7月23日22:50付)
 ソウル大病院労組は、病院側が提示した、週5日制に備えての人員210人補充、一部部署職員の段階的正規職化などを骨子とする最終案にスト参加組合員の74%が賛成し、25日、業務に復帰すると23日、明らかにした。病院は、労組を相手に起こした15億ウォンの損害賠償・仮差押えと刑事告発を撤回する方針。
 妥結案には、短期病床制と2人病室料引き下げ案の年内策定、2006年6月から病室テレビの視聴料無料化など、医療の公共性を強化する内容が多数含まれており、週5日制に関連して外来診療を段階的に減らすよう努力する、としている。一方、今回のストの主要争点だった、新入職員の生理休暇問題は解決しなかった。

●保健医療労組産別暫定合意案可決(毎日労働ニュース8月2日付)
 116支部組合員の78.6%が賛成…ソウル大病院支部は「条件付き産別脱退」決議
 6月23日に始まった保健医療労使産別交渉の暫定合意案が可決された。
 保健医療労組(ユンヨンギュ委員長)は7月27日から3日間、暫定合意案に対する賛否投票を行った結果、組合員全体3万5678名のうち2万6899名(75.4%)が投票し、このうちの2万1139名が賛成し(78.6%)、可決されたと明らかにした。反対は5595名(20.8%)だった。
 今回の投票には、6月に集団争議調停申請を出した121の支部のうち、ソウルアサン病院など産別合意案を受け入れずに賃金・団体協約交渉を終えた5つの支部を除いて116の支部が参加した。
 産別暫定合意以降、具体的な人員増、非正規職の正規職化の規模などをめぐる支部別交渉を終えた支部は90あり、これまでに計2000名の人員増で各病院労使が合意した。クァンミョン誠愛病院支部は、産別暫定合意案の受け入れと組合員懲戒の撤回などを要求して50日を超えるストを行っている。
 保健医療労組は6月10日、週5日制や人員増など産別5大要求を掲げて同月23日までストを行い、一時的な土曜隔週勤務、患者権利章典宣言、病院産業への最低賃金制導入、保険連帯基金の設立に向けた労使共同委員会設置などで暫定合意した。
 保健医療労組は「病院と政府は今年の産別ゼネストの過程で明らかになった交渉準備不足と週5日準備不足を教訓として特段の努力を行い、土曜外来診療の空白にともなう応急医療体制を構築」するよう求めた。
 一方、産別暫定合意案のうち10条2項の廃棄を保健医療労組執行部に求めてきたソウル大病院支部は、「来年の10条2項廃棄約束」を労組執行部が守らなかった場合、産別労組を脱退する案を組合員総投票に付し、89.9%で可決させ、論議を呼んでいる。
(産別暫定合意案10条2項=病院労組の暫定合意案10条1項には、産別協約によって既存の支部団体協約と労働条件が低下してはならないと明示されており、10条2項には、賃金、労働時間短縮、年月次休暇および手当、生理休暇は、産別協約のほうが支部団体協約および就業規則に優先するとなっている。)

●クァンミョン誠愛病院スト、54日目に妥結(毎日労働ニュース8月2日付)
 産別暫定合意案受け入れ、組合員の懲戒最小化などで合意
 クァンミョン誠愛病院労使は3日午前5時頃、保健医療労組の産別暫定合意案を受け入れ、昨年のスト関連の4人と、今年のスト関連の5人を停職以下の懲戒とすることで意見の接近を見、午後4時30分頃、暫定合意調印式を行った。
 組合員の懲戒問題はストの過程で最も争点となった点で、病院側は昨年の31日間労組ストに関連して80人を、今年のストに関連してスト参加者全員を懲戒するとの方針を固守してきた。
 労使はまた、労働委員会で労組脱退慫慂などの不当労働行為が認定された病院管理者3人に対する部署異動および教育、再発防止対策などで合意し、賃金未払いや業務妨害・名誉毀損などで労使が相互に提起していた陳情や告訴告発を全て取り下げるとした。(中略)
 クァンミョン誠愛病院は今年の病院労使産別交渉に加わらず、昨年のストの過程での労使合意に反してスト参加者を懲戒委に付し、労組と対立を深めてきた。
 また、保健医療労組の産別ストが終わって以降も、スト参加者の懲戒、産別暫定合意案受け入れ不可の立場を掲げ続けたため、6月10日から労組が長期ストを行っていた。

●保健医療労組2004産別交渉、何を残したか(毎日労働ニュース8月2日付)
 イジュホ・保健医療労組政策企画局長

 「金より命を!」を掲げた保健医療労組の産別交渉闘争がついに終わった。
 今年の病院闘争は、最後の組合員賛否投票の結果まで多くの人々の疑念を招き、社会的注目を受けた興味津々の闘争だった。
 3月17日の会見を皮切りに、毎週水曜日の産別交渉と産別闘争、5月25日の争議調停申請、6月10日の産別ゼネスト突入、同月23日の産別交渉暫定合意、支部交渉への転換、大多数の支部での交渉妥結、7月27〜29日の全組合員賛否投票…など息をもつかずに走ってきた。投票において組合員は、78.6%という圧倒的な賛成で一部の論争を払拭し、今後の産別交渉に力を与えてくれた。
 今回の保健医療労組の産別交渉は、労働界が苦悩している新たな交渉構造の確立と、賃金・団体協約を超える社会公共性闘争、産業政策と雇用安定をめぐる労組の活動方向に多くの示唆を投げかけている。ここでは簡略に今回の産別交渉の特徴と成果を確認し、今後に残された課題をともに検討してみたい。

 産別交渉時代の開幕
 まず、金属、金融労組に続いて今年は健医療労組が産別建設6年目に産別交渉を完全に実現させ、いまや各組織の歴史と特性に基づいた本格的な産別交渉の時代を予告している。
 病院での産別ゼネストを通していくつかの段階を飛び越えた産別交渉の進展は、「わが国で果たして産別交渉は可能か」という世間の懸念を一挙に払拭し、産別運動を加速させた。
 内容面でも、病院界を代表する大学病院の全員参加、産業別議題と週5日制を含む主要な労働条件が、規模と特性の違いを超えて100余りの病院の単一の合意書としてまとめられ、今後産別労組が、規模と組織的偏差を超えて連帯と平等に向かう重要な契機となった。
 2つ目の特徴は、労働運動の議題の確定と社会的波及力だ。計8ページ、10章からなる今回の産別協約の内容のうち、産別基本協約、医療産業の発展と医療の公共性強化に向けた労使政特別委員会設置、産業別最低賃金制の導入、保健連帯基金の設置、医療機関での週5日制施行の原則と雇用創出をめぐる合意などは、これまでの企業別交渉ではとても不可能だった産業政策介入と非正規職、未組織問題の解決に一歩近づいたものだ。
 妥結前後に最低賃金委で最低賃金が確定したり、労組のない病院などで多くの問い合わせ電話を受けるなど、産別交渉が与える社会的波及効果を実感することができた。
 3つ目の特徴は、金属労組の損害賠償仮差押え禁止の合意とともに、保健医療労組は毎年争点となってきた、職権仲裁のない労使自律交渉による妥結の原則を産別基本協約で合意した。
 実際今年は、ストの14日間における必須人員配置とともに、職権仲裁のない労使自律交渉で妥結するという重要な先例を残した。こうした結果は、2002年のカトリック中央医療院、キョンヒ医療院の長期ストなど血にまみれた悪法撤廃闘争の成果であり、悪法の実質的な無力化の始点となるだろう。
 最後に、我々が注意深く見るべきことは、産別交渉をめぐる組織的準備と組織強化だ。
昨年下半期から組織内部的に「産別交渉オールイン」を叫び「産別要求‐産別交渉‐産別調停申請‐産別総投票‐産別ゼネスト」を早くから闘争基調として確定し、数度にわたる現場懇談会と幹部討論を通して大衆的な決意を集め、産別5大要求として全ての現場の要求集中、20億を超す闘争基金づくり、争議行為投票への80%近い賛成、121の病院での1万人を超すゼネスト参加など、良く準備された闘争とねばり強い世論宣伝作業、産別中央組織の高い統合力と集中性により、紆余曲折を経ながら進んだ産別交渉も、途中で挫折することなく最後まで完走することができた。
したがって、表面的な結果を離れて、準備過程と組織力などが産別交渉の必要十分条件としてともに検討されるべきであり、もう一方で、産別交渉が組合員の意識変化と組織強化に及ぼす爆発的な影響にも注目すべきである。

 労働運動と労使関係の枠を変えよう
 産別交渉は終わったのではなく、新たに始まる。
 当面、下半期から各種特別委の設置と2005年産別交渉を労使がともに準備してゆく必要があり、労組内部では、組織的評価作業とともに来年の産別交渉のさらなる進展を準備する必要がある。
 特に今回争点となった産別協約の原則、組織内部の民主集中性確立、産別ストの範囲と適法性の問題、産別交渉に続く支部交渉での使用者側の不誠実交渉の問題、二重ストなどに対する討論とともに、使用者代表団の設置と交渉方式、産別交渉と支部交渉の議題配分、産別賃金体系、産別交渉対応体系の強化、産別ストの戦術などについて集中的な準備が行われる必要がある。
 産別交渉は、単に交渉形態を変えるだけの実務的・技術的問題ではない。労働運動と労使関係発展のパラダイムを変える哲学的、戦略的問題だ。
 したがって、何よりも今後労使政がともに苦悩すべきことは、労働運動の社会的役割を高める産別交渉、交渉費用を減らし、新たな交渉文化、労使関係の発展をめざす産別交渉となるには何を準備すべきか、そのための開かれた討論が必要だ。
このかん多少停滞していた産別運動が、今回の保健医療労組の産別交渉と産別ゼネストを契機に、実践的、具体的討論を経てさらに弾みをつけることを望む。
さらには、企業別交渉を超え、産別交渉や社会的交渉など、重層的な交渉構造の確立にとっても一助となるよう希望する。

●条件付き脱退決議に際してのソウル大病院支部の立場(毎日労働ニュース8月3日付)
 チェソニム・保健医療労組ソウル大病院支部指導委員
 保健医療労組ソウル大病院支部(キムエラン支部長)が、「賃金、労働時間短縮、年月次休暇および手当、生理休暇については産別協約のほうが支部団体協約と就業規則に優先する」となっている「10条2項」について、これを来年廃棄しないのであれば保健医療労組を脱退するとする案件を可決させ、問題になっている。このことに関連し、ソウル大病院支部が以下の文章を送ってきた。(毎日労働ニュース編集部)
*       *       *
 ソウル大病院支部は、13日間の産別ゼネストと30日あまりの支部ストを終わらせ、7月27日から3日間、保健医療労組からの条件付き脱退の可否を問う組合員賛否投票を行った。その結果、89.9%の賛成率でこれを可決させた。
 わが支部の決定事項は以下の通りだ。

 産別協約第10章「協約の効力」2条に関連し、保健医療労組が同条項の問題点を認め、公式議決機関を通して次年度の団体交渉でこれを削除すると決議しない限り、保健医療労組を脱退し、独立の労働組合へと組織形態を変更する。

 *産別協約10章(協約の効力)
1)産別交渉での合意内容を理由に既存の支部団体協約と労働条件を低下させることはできない。
2)但し、第9章(賃金)、第3章(労働時間短縮)、第5条(年月次休暇および年次手当)、第6条(生理休暇)は、支部団体協約および就業規則に優先して効力を持ち、同協約の施行と同時に支部の団体協約および就業規則を改定する。

 われわれは「脱退」自体を望んでいるのではない。ソウル大病院支部は、1988年の全国病院労働組合連盟と1998年の全国保健医療産業労働組合の創立をどこよりも先頭で担ってきたのであり、産別創立の精神を守るために一生懸命活動してきたと自負している。
 わが支部の願いは、「正しい産別労組」を確立することであり、保健医療労組の執行部と全ての組織に訴える。産別交渉労使合意書第10章2条は、次期団体交渉でこれを削除するという決議がなされてこそ、保健医療労組はまっとうな道を進むことができる。産別協約10章2条は、単純に「不十分」というレベルではなく、性格上、重大な問題点をはらんでいる。
 第1に、産別労組は、社会的な最低労働条件をより高いレベルに改善することをその本質的な目標としている。だが同条項は、労働条件の高いレベルでの統一という原則ではなく、低いレベルでの統一を強要し、労働者の間に団結ではなく分裂をもたらそうとしている。現在、事業所ごとに労働条件でかなりの格差があるが、漸進的に高いレベルへと統一されてゆかなければならない。そうでなければ、労働条件の良好な事業所と、そうでない事業所との間に対立が生じ、闘争力のある事業所の組合員であればあるほど産別闘争に消極的になる可能性が高くなる。そうなると、交渉は、闘争力を基礎に実現されるのではなく、産別労組上層の政治力と交渉力に依存する労使慣行として定着せざるをえない。
 第2に、10条2条は、上層中心の、官僚化された産別労組に変えられる手段になる可能性が高い。
 産別労組の大きな危険性の一つが、産別労組の一部上層幹部が、使用者や政府(労働部)と適当に密着し、組合員の健全な問題提起や現場闘争に背を向けることだ。今回のソウル大病院支部の闘争過程でもこうした懸念が現実化した。
 ソウル大病院側は、10章2条を理由に一切の交渉を拒否し、支部で行うストは不法であり、本組幹部と支部交渉を行うとした。
 これに対し本組執行部は明確な対応をとらず、それどころか、民主労働党の中央委が「ソウル大病院支部の闘争を支持するための特別決議」を行った際、本組幹部がこれに反対し、10章2条の削除を要求するとして、長期闘争に立ち上がった支部の生計費や闘争支援の要請すらも拒絶した。さらには、本組が民主労働党に送った公文書に示されているように、傘下支部や政党、社会団体の支援連帯すら遮断した。
 最後に、産別協約10章2条のような条項によって、勤労条件の平準化や産別協約へと向かうということもありえない。端的な例として、「賃上げ率を基本給の2%として同一に適用する」ということは、労働条件の平準化や産別協約とはかけ離れた話だ。
 東亜大のカンシンジュン教授(ハンギョレ8月2日付)によると、産別労組は低賃金労働者の賃金水準を高めるべきであり、大企業労働者の賃金を下げることにその目的があってはならないとされている。このように、支部交渉を通して、その基準を上回るようにする道を開くべきだ。
 こうした理由でわが支部は、産別合意第10章2条には問題があり、来年これを削除すべきだと主張しているのだ。そうでなければ産別労組の希望はないと考える。これはわれわれだけではなく、すでに他の多くの支部でも公式に問題提起を行っており、4万組合員に関わることである。
 わが支部の条件付き脱退は、企業別労組への回帰を目的としたものではなく、臨時の過程に過ぎない。もちろん困難な道だと考える。
 しかしわれわれは、44日間のゼネストの中で、多くの労組や政党・社会団体の連帯を身をもって感じた。このことは、正しい連帯闘争の原則を守ることに賛同してくれる同志たちが多いということを示しており、辛く厳しくともソウル大病院支部は民主労組の原則と正道を選択したい。
 あわせて、勇気を失うことなく力強く闘えるよう支持と連帯を示してくださった多くの団体と民主労総、保健医療労組の支部および多くの同志たちにあらためて感謝の意を伝えます。